偽物の製造は,文明の誕生とともにあるほど古い。ローマ共和国末期,豊かになったローマ人社会では階層間が流動的となる。上流階級に仲間入りする方法のひとつが,貴族階級である元老院議員に受け入れられることだった。政治家で哲学者のキケロは支配階級の仲間入りを切望し,平均的ローマ人の年収が1000セステルス(古代ローマの貨幣単位)だったときに,なんと100万セステルスを支払い,レモンの木を彫ってつくった机を購入したという。すぐにローマの新興成金も真似をして同じようなテーブルをつくろうとしたが,とてもそんな大金を払えない人は安い素材でコピーをつくらせた。彫刻家もまた,新興の小金持ちが家や庭に置く偉人の彫像のコピーを何体もつくった。古代史を研究する歴史家で,ドキュメンタリー映画監督のジョナサン・スタンプが解説する。
「そんなことにカネを使い,表向きだけの見栄をはるようになったのは歴史上初めてだった。古い社会構造は消え,『昔の人は身の程を知っていた』と,元老院議員たちを嘆かせた」
ダナ・トーマス 実川元子(訳) (2009). 堕落する高級ブランド 講談社 pp. 279-280
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