偽造品製造工場で働く子どもたちは,たいていオーナーの家で暮らしている。私が目撃した手入れのときにいた子どもたちも,中庭を隔てた薄汚い宿泊所に寝泊まりしていた。工場が手入れを受け,オーナーが逮捕されれば,子どもたちは仕事ばかりか住むところも失ってしまう。家宅捜索に何度も立ち会ったある捜査官などは,児童労働者たちのあまりにも悲惨な境遇に心を動かされ,同僚とともに寄付を募り,行き場を失った子どもたちを学校に通わせ,教育費や生活費を援助していた。
時にはぞっとするケースもある。家宅捜索が終わって引き揚げてくる途中に,ある警官が話してくれたエピソードは強烈だった。
「2年前,タイのある組み立て工場に行ったとき,10歳以下の6〜7人ほどの子どもが床に座って偽ブランドのバッグをつくっている姿を見ました。オーナーは彼らの脚の骨を折った上,膝から下を太ももに縛りつけてわざと治らないようにしていたんです。『外に出て遊びたいと言い出さないようにやった』と言ってました」
ダナ・トーマス 実川元子(訳) (2009). 堕落する高級ブランド 講談社 pp. 293
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