無限大匹のサルを(頑丈な)タイプライターの前に座らせて好きに叩かせると,『イーリアス』を正確に書き上げるサルが確実に一匹は出る。でも,調べてみると,一見して思うほどには面白い話ではないのがわかる。そんなことになる確率はとても低いからだ。この話をもう一歩進めてみよう。これでどのサルが英雄かはもうわかったわけだ。では,そのサルが次に『オデュッセイア』を書く方に賭ける人はいるだろうか?
この思考実験で面白いのは二歩目のほうだ。過去のパフォーマンス(この例では『イーリアス』を書き上げた実績)は将来のパフォーマンスとどれくらい関係あるのだろうか?過去の実績にもとづき,過去の時系列データの特徴に頼って将来を予測するなら,どんな判断を下すときでも同じことが当てはまる。さっきのサルが,あなたの家を訪ねてきて,すばらしい実績をあなたに吹き込んだとしたら,どんなことになるだろう?だってほら,『イーリアス』を書き上げたんだから。
ナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛(訳) (2008). まぐれ 投資家はなぜ,運を実力と勘違いするのか ダイヤモンド社 p.170.
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