実験が示したことは,彼は,このように,きわめて容易に長い系列を再生することができ,しかも,それを逆の順序,つまり終わりから最初への順序でも再生できるということであった。また,どの語のつぎにどの語がくるのか,指示した語の前にどのような語が並んでいるのかを言うことは,いとも容易なことであった。だが,指示した語の前の語を探し出すときには,あたかも必要な語を探索しているかのように,しばらく休み,つぎに問題に答える。しかも,普通は誤ることはなかったのである。
提示するのが,有意味語であっても,無意味綴りであっても,数字もしくは音素であっても,また,口頭で提示しても,書字の形で示しても,彼にとって差はなかった。ただ彼にとって必要だったことは,提示する系列の各要素を2〜3秒の休止間隔をおいて提示することであった。そうすれば,つぎの系列の再生には,何ら困難をひきおこすことはなかったのである。
A.R.ルリヤ 天野清(訳) 偉大な記憶力の物語:ある記憶術者の精神生活 岩波書店 pp.10-11
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