シィーは,自分の心臓の働きや,自分の体温を随意にコントロールできると話したが,それは口先だけではなかった。実際に,そのようにコントロールすることができたのである。しかも,その範囲はかなり大きい。
今,彼の安静時の通常の脈拍が示されている。毎分70〜72回だ。しかし,しばらく休止すると……脈拍はひんぱんになり,速くなる。ほら,すでに,毎分80……96……100に達する。つぎに,逆の場合を見てみよう。脈拍は,再び遅くなり,その回数は,通常の域に達し,ほら,今は,脈拍はさらに少なくなり……毎分64……66だ。
どのようにして,このようなことができるのだろうか?
「何が不思議なのでしょうか?私はたんに,私が汽車を追いかけているのを見ているのです。汽車は出たばかりで,どんどん離れていきます……私はなんとか追いつき,最後の車両の階段に飛びのらなければなりません……心臓がこのように速くなったことが,いったい驚くべきことでしょうか?……次に眠るために横になります……私はベッドの上にじっと動かずに横になっています。……ほら,私は眠りはじめます。……呼吸は平静になり,心臓はゆっくり,均等に拍動するようになります……」。
A.R.ルリヤ 天野清(訳) 偉大な記憶力の物語:ある記憶術者の精神生活 岩波書店 pp.171-172
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