子どもが「○○ちゃんていうムカつくやつがいる」と家でふと漏らしたときに,「その子にもいいところはあるでしょう。相手のいいところを見てこっちから仲良くする努力をすれば,きっと仲良くなれるよ」というのは一見懐の広い大人の意見ですよね。その理想通りに運ぶこともあるでしょうが,現実にはなかなか難しいかもしれません。こんなときは,「もし気が合わないんだったら,ちょっと距離を置いて,ぶつからないようにしなさい」と言ったほうがいい場合もあると思います。
これは「冷たい」のではありません。無理に関わるからこそ,お互い傷つけ合うのです。ニーチェという哲学者の言葉で,「愛せない場合は通り過ぎよ」という警句があります。あえて近づいてこじれるリスクを避けるという発想も必要だということです。
ニーチェは「ニヒリズム」という言葉で有名な哲学者ですが,もうひとつ「ルサンチマン」というキーワードに焦点を当てて,ものを考えた人です。ルサンチマンとは「恨み,反感,嫉妬」といった,いわば人間誰もが抱きうる「負の感情」のことです。
誰でも,自分がうまくいかなかったり,世の中であまり受け入れられなかったりしたときに,自分の力が足りないんだと反省するよりも,往々にして「こんな世の中間違っているんだ」と考えたり,うまくいっている人たちを妬んだりするものです。そんな感情を自覚して,「どうやりすごすか」を考えることが大切です。ニーチェは,「ルサンチマンについて陥ってしまうのが人間の常なんだけれども,そこからどう脱却するか」ということを示唆している哲学者です。「やりすごす」という発想が,非常に大事なことだと私は思っています。
菅野 仁 (2008). 友だち幻想 人と人の<つながり>を考える 筑摩書房 pp.71-72.
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