この本の主題である学歴を例にして,もう少し具体的にいいましょう。以前は「中卒学歴の親のもとに生まれたAさんが高校に行き,高卒学歴の親のもとに生まれたBさんが大学に進んだ。どちらも同じように親よりも高学歴になる時代だ」ということで,双方が円満な気持ちになることができていました。けれどもいまは「高卒学歴の親のもとに生まれたCさんがまたしても高卒,大卒学歴の親をもつDさんがまたしても大学進学した。上下関係が世代を越えて続いている」というように,不平等を認識しやすい状態になっているのです。
豊かさの拡大期にはみんながポジティブな気分でいられたのですが,高原期が続くことによって,子どもが親を越えられない時代に入ると,わたしたちの階層や地位のイメージは,徐々に醒めたものになっていきます。そしてこれから先,親と子の豊かさの水平的な関係が続くかぎり,いまの「格差社会」は,そう簡単に解消されるわけなどないのです。これもまた,階級・階層の「不都合な真実」の1つに数えられるかもしれません。
吉川 徹 (2009). 学歴分断社会 筑摩書房 pp.109-110
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