その論文では,タイプAについて何もコメントがなかったのだが,この数十年間でアメリカ社会はタイプAを克服してきたように思われる。それは,いくつかの点からいえる。
第1に,タイプAと冠動脈疾患との関係は,じつは時代とともに変わっているのだ。1970年代後半まではタイプAで冠動脈疾患が増えるという報告が多かったが,1980年代になるとむしろ両者の関連を否定する報告が多くなった。つまり,最近のアメリカ人ではタイプAの人たちとタイプBの人たちとで,冠動脈疾患のリスクは変わらなくなったのである。ストレス解消法やリラクセーション法を広く実践するようになったことで,タイプAの有害性が弱まったのではないだろうか。
第2に,「心筋梗塞はアメリカ社会で成功した者がなる病気」という構図も逆転してしまった。いまのアメリカでは,社会階層の高い者ほど,心筋梗塞の死亡率が低い。彼らは日常生活に気をつけている(たとえば学歴や年収と喫煙率が反比例することは,もはや常識)ことが,その理由の1つと思われる。そして,もう1つは,社会階層の高い者がストレス解消やリラクセーションに熱心であることも関係しているだろう。もちろん,低い階層で健康が悪化しているという問題は見過ごすべきでないが,その一方で高い階層の人が心筋梗塞から解放された過程についても学ぶべきである。
辻 一郎 (2010). 病気になりやすい「性格」:5万人調査からの報告 朝日新聞出版 pp.111-112
PR