要するに,アンケート調査の時点でがん既往歴のあった人たちは,そうでない人たちに比べて,神経症傾向の得点が高かった。追跡を始めてから間もないころにがんを発病した人でも,既往歴のある人たちと似たような結果となった。一方,追跡を始めてから3年以降にがんを発病した人たちと,がんにならなかった人たちとの間では,アンケート調査時点のEPQ-R得点に差はなかった。
がん既往歴のあった人たちでは,治療の後遺症で苦しんだり,再発の不安を感じたりしている人も多いだろうから,その結果として神経症傾向の得点が高くなったものと考えられる。アンケート調査から間もないうちにがんと診断された方がたで神経症傾向の得点が高くなっているのも,自覚症状などの影響が考えられる。一方,アンケート調査からしばらく経ってからのがん発病は,神経症傾向の得点とまったく関係がなかった。つまり,健康だったころ(がんになる前)の性格特徴をもって,その後の発がんリスクを予測することは不可能だった。
性格はがんと関係ないというのが,この研究の結論である。がんの既往歴のある方がた,調査開始から間もないころにがんと診断された方がたで不安・抑うつ傾向が高まっていたのは,(不安・抑うつが発がんの)原因ではなく,(がんを患ったことによる)結果だったのだろう。
辻 一郎 (2010). 病気になりやすい「性格」:5万人調査からの報告 朝日新聞出版 pp.128-129
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