ところで,ラマルクやキュヴィエによって進化とか機能とかの概念が与えられて以来,生物の類似性は単に見てくれだけのものではなく,何かかくれた根拠を持つとの考えが強くなった。そこで分類の理念は次の4つに分極する。
(1)自然分類は形態の類似度を定める客観的な基準によって行えばよく,それ以上の深い根拠を求める必要はないとの表層主義。
(2)自然分類は生物の進化(歴史)を根拠にして行うべきとの歴史主義。
(3)自然分類は見てくれの類似性を発する根拠としての不変の構造によって行うべきとの構造主義。
(4)どんな分類基準も所詮は人間の認知パタンや思考パタンから免れるものではなく,自然分類もまた,自然言語や類似性に関する人間の認知形式と整合的な人為分類の一種にすぎないとの規約主義。
理念的な問題だけで言えば,(1),(2),(3)の立場は互いに背反して,しかもすべて(4)を許容しないが,(4)の立場は(1)や(2)や(3)を許容する。なぜならば(1),(2),(3)のやり方もまた,人が類似性を考える時のひとつの形式であると考えるからである。
池田清彦 (1992). 分類という思想 新潮社 pp.85-86
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