ところで,アフリカ人と中国人が事実として,長い期間交叉を起こさずに独立に進化(形態変化)したとしよう。あるとき出合ってみたら,交叉が不可能だったとしよう(もちろん,現実はそうではないが)。交叉が不可能になった要因を特定することはさしあたって不可能だから,この場合は分岐をもって交叉不能の原因であるかのように思い込むことができるわけである。すなわち分岐は種を作る。もちろん実際には,実は分岐が起こっていないのだと,言う他はないのである。すると分岐が起こっていなくとも形態が変化するわけだから,形態変化の原因は分岐では決してあり得ない事になる。
結果として分岐が起きた(交叉が生じなかった)時の,二系列の形態の差異の原因は分岐であると言い,結果として分岐が生じなかった(交叉が起きた)時の,二系列の形態の差異の原因は分岐でない,と言うのはどう考えてもインチキくさい。
池田清彦 (1992). 分類という思想 新潮社 pp.116-117
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