分類学者は生物個体や種を分類しているのであって,DNAなどの分子を分類しているわけではないから,DNAによる分類体系が,自然言語に代表される類似に関する直観(これは主として形態の類似に関する直観である)と矛盾すると,自然分類体系としては具合が悪いことになる。
私のようにDNAの相同性や分岐による分類は,体長による分類とさしてレベルが違わない人為分類だと思っているものにとっては,分類と分岐は原理的には全く関係がないと思えるけれども,極端な歴史主義の呪縛から自由でない人々は,何としても分岐を分類の基準にしなければならないと信じている。
ところが何度も言うように形態は分岐とは直接関係がない。そこで,形態の中に分岐パタンを反映する形態と,そうでない形態があると勝手に決めて,後者を無視し,前者だけで分類をすれば,歴史主義的な形態分類ができるという話になってきてしまったのである。
池田清彦 (1992). 分類という思想 新潮社 pp.120-121
PR