真の科学的分類群は,分類学者が比較形態学的な研究を重ねて,原型(すなわち,沢山の形態の間の変換規則の同一性)という仮説を構築することによってのみ導くことができる。そして,このようにして導かれた分類体系が,我々の自然言語を含む認知パタンと齟齬を来たさない時は,この体系は科学的分類体系であると同時に,よい自然分類の体系であると言うことができるのである。
パタン分析主義者は,パタン分析によって導かれる分類体系は特定の進化モデルに依拠しない一般参照体系であると豪語しているが,科学の目的は一般参照体型を構築することにあるのではなく,何らかの仮説に基づいた体系を構築することにこそあるのだ。分類群を何らかの仮説に基づいて実定してこそ,分類学と言えるのである。一般参照体系によって析出される分類群が,共通要因の結果生じた分類群である確率が最も高い,というパタン分析主義者の言明は,その分類群の科学的正当性を全く保証しない。共通要因を仮構しないで導いた一般参照体系は研究作業の一プロセスにすぎない。重要なのは共通要因を仮構して,それに基づいて分類群を実定することである。一般参照体系は所詮ただの道具にすぎない。一般参照体系が最も合理的かつ科学的な分類体系であるという言明が唯一正しいのは,我々は決して分類群を分類群たらしめている共通要因を仮構することができない,という不可知論が正しい時だけである。不可知論を自らの理論の正しさの根拠にしている科学理論がまっとうなものであると考えることは,私にはできない。
池田清彦 (1992). 分類という思想 新潮社 pp.194-195
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