おおまかに言って,多くの文明の歴史は共通の筋をたどっている。最初,肥沃な谷床での農業によって人口が増え,それがある点に達すると傾斜地での耕作に頼るようになる。植物が切り払われ,継続的に耕起することでむき出しの土壌が雨と流水にさらされるようになると,続いて地質学的な意味では急速な斜面の土壌侵食が起きる。その後の数世紀で農業はますます集約化し,そのために養分不足や土壌の喪失が発生すると,収量が低下したり新しい土地が手に入らなくなって,地域の住民を圧迫する。やがて土壌劣化によって,農業生産力が急増する人口を支えるには不十分となり,文明全体が破綻へと向かう。同様の筋書きが孤立した小島の社会にも,広大で超地域的な帝国にも当てはまるらしいということは,本質的に重要な現象を示唆する。土壌侵食が土壌形成を上回る速度で進むと,その繁栄の基礎——すなわち土壌——を保全できなかった文明は寿命を縮めるのだ。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.8
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