チャールズ・ダーウィンの最後にしてもっとも知られざる著書は,特に物議をかもすようなものではなかった。1882年に死去する1年前に刊行されたこの本は,ミミズがいかにして泥と朽ち葉を土壌に変化させるかを主題とするものだった。この最後の著作にダーウィンが記録したことは,一生かけてつまらない観察をしたと思われかねないものだ。それともダーウィンは,この世界の根幹に関わる何かを発見したのだろうか——晩年を費やしても後世に伝えねばならないと思う何かを。耄碌して書いた珍妙な著作として片づける批判的な者もあったが,ダーウィンのミミズに関する本は,私たちの足元の大地がミミズの体を通じていかに循環しているか,ミミズがイギリスの田園をいかに形成しているかを探るものだった。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.10
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