斧よりも鋤がその地方の運命を定めるのだと,ラウダーミルクは述べる。「人間は地形を操作することはまったくできないし,地面に注ぐ雨の降り方にもほとんど手を出せない。人間は,しかし,土層を操作することができ,そして山地では土層がどうなるかを明確に決定づけることができる」。ラウダーミルクは,この省のかつての住人たちが,耕作の楽な谷底の森をどのようにして切り払ったかを推定した。人口が増えるに従い,農地は斜面の上へと拡がっていった。ラウダーミルクは高い山の頂上に放棄された畑の形跡まで見つけた。この地方の急斜面で農業を行なった影響を考察したラウダーミルクは,剥き出しにされ,鋤の入った斜面から,肥沃な土壌は夏の雨によってわずか10〜20年ではぎ取られてしまっただろうと結論した。また,地域一帯で斜面の農地が放棄された形跡が多数見つかったことから,過去のある時期,この地方全体で耕作が行われていたと結論づけた。まばらな人口と,放棄された大規模な灌漑システムの対照的な姿は,よき時代が過ぎ去ったことを物語る。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.59-60
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