イングランドの人口増加は,黒死病以降産業革命までの農業生産の増加を反映している。1750年から1850年の間に,イングランドの穀物生産量と人口は共に倍増している。人口の増加が農産物の需要を押し上げたのだろうか?それとも農業生産の増加が人口増を速めたのだろうか?因果関係をどう見るにせよ,二つは並行して増えている。
それにもかかわらず,人口が増大するにつれヨーロッパ人の食事は貧弱になっている。耕作できる土地がほとんどすべて耕作されてしまうと,ヨーロッパ人はしだいに野菜,粥,パンを常食とするようになっていった。冬の間家畜に与える余剰の作物がなく,後には共有地で放牧ができなくなったので,肉を食べることは上流階級の特権となった。1688年にロンドンで出版された匿名の小冊子は,大規模な失業はヨーロッパに「人間が多すぎる」ことが原因であるとし,アメリカへの大量移民を勧めた。19世紀初め,ほとんどのヨーロッパ人は1日2000カロリー以下で生きていた。これは現代のインドの平均とほぼ同じであり,ラテンアメリカや北アフリカの平均より少ない。畑を懸命に耕すヨーロッパの農民は,週に3日働くだけのカラハリ砂漠のブッシュマンよりも食べられなかったのだ。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.133-134
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