リンの鉱床を持たない工業化途上のヨーロッパ諸国も,グアノ島の獲得に奔走した。ドイツはリンが豊富なナウルを1888年に併合したが,第一次大戦後,国連加盟国がイギリス統治下に置いたために,失うこととなった。1901年,イギリスはオーシャン島——14キロ四方のリンの山——を併合した。イギリス国有のパシフィック島会社は,グアノをオーストラリアとニュージーランドに売ることを望んでいた。いずれも安価なリンがなかったからだ。年間の支払額50ポンドで同社は島全体の採掘権を,権限のはっきりしない現地の首長から買った。そのような手続きの面倒など問題ならないほど儲けは大きかった。オーシャン島のリン取引量は,1905年には年間10万トンに達していた。
第一次大戦後,イギリスリン鉱委員会はパシフィック島会社を買収し,ナウルからのリン採掘を6倍に増やした。島民は,イギリスが島の植生と土壌をはぎ取って自分たちの土地を壊していると抗議した。それに応えて,イギリス政府は残された採掘可能な土地を没収した。その直後,島全体で深部採鉱が始まった。以後,毎年100万トンのリンが英連邦の農場に向けて送られた。ナウルは1968年に独立したが,リン鉱床は大部分が消え,政府はほぼ破産状態である。かつて豊かな天国だったこの島国——世界一小さな共和国——は完全に露天掘りされてしまった。わずかに残った島民は,掘りつくされて月面のような不毛な地となった内陸部を取り囲む沿岸に住んでいる。
オーシャン島も似たり寄ったりである。リン鉱床は1980年までに枯渇し,外国の土をより肥やすために人が住めなくなった土地で,住民はなんとか暮らしを立てている状態だった。島は現在,タックスヘイブンを産業にしている。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.255-256
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