意外なことではないが,農薬と化学肥料を集約的に用いた農業が,世界の貧しい人々に食糧を与えるために必要だとアグリビジネスは言っている。しかし,約10億人が日々飢えていようとも,工業的農業は答えではないかもしれない。過去5000年にわたり,人口は食料供給能力と足並みを揃えてきた。ただ食料生産量を増やすだけではこれまでうまくいかなかったし,人口増加が続くかぎりこれからもうまくいかないだろう。国連食糧農業機関は,すでに地球上の人間すべてに1日3500カロリーを与えられるだけの作物が生産されていると報告している。1人あたり食糧生産量は1960年代以降,世界の人口よりも速く増加している。世界から飢餓がなくならないのは,農業生産能力の不足よりも,食料事情の不平等や分配の社会的問題,経済が原因なのだ。
デイビッド・モンゴメリー 片岡夏実(訳) (2010). 土の文明史:ローマ帝国,マヤ文明を滅ぼし,米国,中国を衰退させる土の話 築地書館 pp.274
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