さて,1977年に改訂された指導要領に基づき,いよいよ1981年から中学の英語の授業は週三時間に減らされることになる。この頃から,コミュニケーション重視の指導法が勢力を得,それが文法軽視の傾向を生み出すことになる。國弘正雄,村松増美といった英語の名人が,こぞって文法の重要性を説いたにもかかわらず,まさに彼らのような「英語を使える人材」を理想として改訂されたはずの指導要領の結果,中学の学習から文法が切り捨てられていくのは,まさに皮肉としか言いようがなかった。
さらに,文法軽視の傾向が顕著になるに従って,コミュニカティブ・アプローチそのものを悪玉扱いする識者が現れるわけだが,「英語教育大論争」の「実用英語vs.教養英語」といい,今回の「コミュニケーション重視vs.文法重視」といい,この分野の論争が,えてして単純な「白黒争い」に堕してしまうのは悲しむべきことである。なぜ,文法を軽視せずにコミュニケーション・スキルを上げる方法が議論されないのか,不思議でならない。これでは『ジャック・アンド・ベティー』や『アメリカ口語教本』の時代から,ただの一歩も前進していないではないか。
晴山陽一 (2008). 英語ベストセラー本の研究 幻冬社 pp.124-125.
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