Linux(リナックス)というオペレーティングシステム(OS)やFirefox(ファイアフォックス)というブラウザなどが,しばしばオープンソースの代名詞として語られます。しかし,人類に,最も貢献したオープンソースソフトウェアはLinuxでもFirefoxでもなく,四則演算(+ー×÷)の筆算でしょう。四則演算の筆算はインドで発明されたといわれています。インドで整備された位取り記数法や計算方法を,『インドの数の計算法』という書物を通じてアラビア社会,さらにはヨーロッパに紹介する役を担うことになったのがアル・フワーリズミーです。アル・フワーリズミーは9世紀前半にアッバース朝時代のバグダッドで活躍した数学者で,アルゴリズムの語源となった人物です。プログラムは,コンピュータにアルゴリズムを実行させるために,コンピュータが解釈可能な言語を使って表現されたものに過ぎません。
数学者は,巨大な権力と巨万の富をもたらすかもしれない未来予測の式すら,無償で論文として公開してしまいます。金融工学の金字塔のひとつであり,巨万の富を稼ぎ出したブラック・ショールズ方程式にしても,誰もが無償で利用でき,誰もがそれを改変することができるのですから!(十分な根拠なく改変することで,しばしば巨万の富を失ったりもするわけですが)。人類に最も貢献してきたオープンソース活動は数学だといって差し支えないでしょう。
新井紀子 (2010). コンピュータが仕事を奪う 日本経済新聞出版社 pp.122
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