クローニングが期待され,だからこそ恐れられているのは,家畜,ペット,そしておそらく人間の子どもまで含めて,動物の複製をつくれる能力がこの技術にあるからだ。しかし,クローニングによってつぎつぎに生まれてくるヒツジやネズミ,ウシ,ヤギ,ウマ,ブタなどに世間の多大な関心が集まっているなかで,すっかり陰に隠れている驚くべき観察結果がある。クローンは決して複製ではないのだ。これが最も明確に表されたのは,世界初のクローン猫,Cc(カーボンコピーの略)が2001年12月22日に誕生したときである。Ccをつくりだしたプロジェクトは,ある犬の飼い主の資金援助を受けていた。その飼い主は死んだ愛するコリーの複製をつくりたいと願い,クローンならその希望をかなえてくれると期待していた。しかし,白い毛にグレーの縞が入ったCcが,母親と似ても似つかないことは一目瞭然だった。母親のレインボーは白地に茶色と黄褐色と金色の斑点のある典型的な三毛猫だったのだ。そしてCcが成長するにつれ,さらに多くの違いが現れた。たとえばレインボーは肉付きがよくておとなしかったのに,娘のCcはやせていて活発だった。これこそ明らかな証拠ではないか。つまり---とくとごらんあれ---遺伝子だけではペットはつくれないのである。
マーク・S・ブランバーグ 塩原通緒(訳) (2006). 本能はどこまで本能か ヒトと動物の行動の起源 早川書房 pp.96-97.
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