ハッカーがハックしながら学ぶという事実は,ハッキングと科学がどれだけ違うかということを示すもうひとつの手がかりだ。科学者は科学をしながら学ぶのではない。実験と課題をこなしながら学ぶのだ。科学者はまず完璧な仕事から,つまり誰か他の人が既にやったことを再現することから始める。そうしているうちに独自の仕事ができるレベルに達するのだ。一方,ハッカーは最初から独自の仕事をする。ただ最初は下手くそだろう。ハッカーはオリジナルから始めて上手になってゆく。科学者は上手になることから始めてオリジナルになってゆく。
もの創りが学ぶもうひとつの方法は先例から学ぶことだ。画家にとって美術館は技法の先例の宝庫だ。偉大な画家の作品を模写することは,何百年もの間,画家の教育課程の一環となってきた。模写することで,絵がどのように描かれているかを詳しく見るようになるからだ。
作家も同じようなことをする。ベンジャミン・フランクリンはアディスンとスティールのエッセイを要約し,それを再現しようとすることで書くことを学んだ。レイモンド・チャンドラーは同じことを探偵小説でやった。
Paul Graham 川合史朗(訳) (2005). ハッカーと画家:コンピュータ時代の創造者たち オーム社 pp.30-31
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