一人の個人が他人よりそんなに多くの富を生み出せることが原理的にあり得るとは信じ難いかもしれない。このミステリーの鍵は,最初の問いに戻ってみることだ。彼は,本当に私たちの100倍の価値があるのだろうか。バスケットボールチームは,彼らの選手の一人を,適当に選んだ100人の人々と交換したいと思うだろうか。スティーヴ・ジョブズを,適当に選んだ100人の人々からなる委員会と置き換えたら,アップルの次の製品はどうなるだろうか。こういうものごとは,線形には拡大しないんだ。CEOやプロのスポーツ選手は,普通の人々の,たかだか10倍くらいの技能や覚悟(その意味するところが何であれ)を持っているだけかもしれない。でも,それは一人の人間の中に凝縮されているということが,大きな違いとなるのだ。
Paul Graham 川合史朗(訳) (2005). ハッカーと画家:コンピュータ時代の創造者たち オーム社 pp.118
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