自己愛の強い高齢者に見られる妄想症(パラノイア)は,病的な抑うつにたいする防衛のあらわれだ。彼らは自分が人より優れているという考えを維持できず,内側で破綻する。彼らは,復讐心に燃えた人間が弱っている自分を滅ぼそうと攻めてくる,という恐怖に呑みこまれる。だから油断なく目を光らせなければならない。悪意のある者が自分の破滅をもくろんでいるという話は,無力感と依存の恐怖をなんとか制御しようとする最後の努力だ。だがあいにく,そのような荒唐無稽な話は,彼らが依存する相手をいっそう遠ざけ,ますます彼らの人間性を奪う。誇大感と全能感を支えてきたすべてが崩壊するとき,彼らのもろい自己も世界も意味を失い,絶望は病的な抑うつに変わる。慰めを与えてくれる唯一の残された手だてである,幻想へと通じる道だ。悲痛な現実を狂気が引き継ぐ。
ほとんどの高齢者はそこまで完全に崩壊はしないが,狂気のすぐ上を,不安や恐怖に取り憑かれた状態でさまようのかもしれない。老いた身体の痛みや苦しみはヒステリー近くにまで増幅され,その結果生じたパニックは,周囲を途方に暮れさせることもある。
サンディ・ホチキス 江口泰子(訳) (2009). 結局,自分のことしか考えない人たち:自己愛人間とどうつきあえばいいのか 草思社 pp.209-210
(Hotchkiss, S. (2002). Why is it always about you? New York: Free Press.)
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