フォアラー教授は,心理学入門講座の学生たちに性格検査を受けさせ,1週間後,結果についてコメントを書いた紙を渡した。さらに,学生たちに,「そのコメントをよく読んで,自分に当てはまっているかどうか,0(はずれ)から5(パーフェクト)までの数字で評価するように」と頼んだ。また,「この性格検査が,よくできていると思う人は手を挙げるように」とも言った。
さて,少し時間を巻き戻して,実験を再現しよう。学生に渡されたコメントの1枚は,こんな内容だった。このなかに,あなたに当てはまる記述はあるだろうか?
あなたは,ほかの人から好かれたい,賞賛されたいと思っていますが,自分に厳しくしがちなところがあります。性格的に弱いところもありますが,ほとんどの場合は,それをうまく補うことができます。あなたには,まだ生かしきっていない秘めた能力がかなりあります。外では規律を守り,自分を抑えることができますが,じつは不安で心細いことがあります。自分の決断は本当に正しかったのだろうか,間違っていなかっただろうかと,真剣に悩むことがよくあります。ほどよい変化を好み,厳しい制限を受けると不満を感じます。自立した考えをもっているという自信があり,十分な証拠なしに他人の言うことを鵜呑みにすることはありません。他人に自分のことをあまりさらけだすのは,よくないと考えています。外向的で,他人に愛想よくふるまうことができますが,内向的で,慎重になるときもあります。あなたは非現実的な願望ももっています。
学生たちはコメントを読んで採点し,1人,また1人と手を挙げた。少し経つと,ほとんど全員が手を挙げていた。フォアラーは目をまるくした。なぜって?
心理学の実験ではよくあることだが,フォアラーは,学生たちにある事実を隠していたのだ。彼らに渡した性格検査のコメントは,各人の検査結果に基づくものではなく,数日まえに書店で買った占星術の本から抜き出したものだった。そして,もっと重要な点は,どの学生に渡したものも,まったく同じ内容,そう,たった今,あなたが読んだのと同じものだったのだ。
リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.32-33
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