翌日,談春(ボク)は談志(イエモト)と書斎で二人きりになった。突然談志が,
「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」
と云った。
「己が努力,行動を起こさずに対象となる人間の弱味を口であげつらって,自分のレベルまで下げる行為,これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び,抜くための行動,生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの,世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は現実だ。そして現状を理解,分析してみろ。そこにはきっと,なぜそうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」
立川談春 (2008). 赤めだか 扶桑社 p.116.
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