なぜ,人は嘘を見抜けないのだろう?その答えは,テキサスクリスチャン大学のチャールズ・ボンド教授の研究のなかにある。ボンドは,人が嘘をついているときにどんな行動をとるか調べた。彼の心理学研究は,アメリカの大学生数百人にチェックシートに記入してもらうようなレベルではない。60以上の国の数千人に,「他人が嘘をついていることを,あなたはどうやって判断しますか?」と訊いたのである。その答えは,驚くほど一致していた。アルジェリア,アルゼンチン,ドイツ,ガーナ,パキスタン,パラグアイ,どこでもほとんどすべての人が,嘘つきを見破るサインとして,目をそらす,手を振りまわす,椅子の上でそわそわするなどをあげた。
しかし,ここに少し問題があるのだ。研究者は,何時間もかけて注意深く嘘つきと正直者のビデオを見比べ,さらに映像観察訓練を受けた人に,デジタル画像を分析させた。笑顔,まばたき,手の動きなどを見るたびにボタンを押し,コンピュータに記録するのだ。1分間の映像を分析するのに1時間もかかるが,嘘をつくときと本当のことを言うときの身振りの違いが厳密に比較できる。そこで明らかになったのは,嘘つきは本当のことをいう人とまったく同じように相手の目を見つめ,手を神経質に振り回したりせず,椅子の上でそわそわしないということだった(したとしても,本当のことを言う人よりもずっと動きが少なかった)。嘘を見抜くことができなかったのは,身振りに頼っていたからで,実際はそういうものは嘘とは無関係だったのだ。
リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.71-72
PR