これに関して,私が最近行った実験室ベースの簡単な実験を紹介しよう。ある事柄を頭に植えつける実験である。私は学生たちに,あるマジシャンが念力を使って(実際には手のトリックを使って)金属製の鍵を曲げている場面のビデオを見せた。マジシャンは,テーブルの上に鍵を置くと,あとずさりし,「おう,すごい,鍵がまだ曲がっている」と言った。終わってから,学生1人ひとりに面接し,見たことを聞きとった。半数以上が,「テーブルに置いた鍵が曲がりつづけていた」と答え,「マジシャンはどうやって,あんなみごとな技を見せられるのだろう」と不思議がった。
これこそ,だましの専門家が長年の経験を利用して観客をだますあざやかな実例である。マジシャンは,こんな大胆な一言で,現実にありえないことが目の前で起こっていると,人びとに信じさせることができるのだ。
リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.96-97
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