京都大学の平憲二研究グループは,日本の別の迷信が経済におよぼす影響を調査した。1873年以前の日本では太陰暦が使われ,曜日には「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6つがあった。今日でも,大安はめでたい日とされ,仏滅は縁起の悪い日とされている。このため,病院から退院するときも,大安の日に退院したがる患者が多い。最近3年間の退院記録を調査したところ,実際に多くの患者が大安の日まで退院を伸ばしていることが明らかになった。この迷信のために費やされる費用は,年間数十億円にのぼる。日本ばかりではない。アイルランドでも,「土曜日に出発する人はすぐ戻る」という迷信があり,4年間に記録された7万7千件の産婦人科データを分析したところ,土曜日の退院者は,平均より35パーセント少なく,金曜日には23パーセント多く,日曜日には17パーセント多かった。
これではっきりした。迷信は,たんに木に触れたり指をクロスしたりするだけのたわいないものではない。それどころか,家の価格や,交通事故の死傷者数や,中絶率,死亡者数にも関係し,治療を必要としない患者のために巨額な無駄金を使わせている。
リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.112-113
PR