そんな前説である事件が起こった。ある新喜劇の番組の前説で,僕たちはまずお客さんを温めるためにネタをやった。それが受けて気持ちよくなった。ネタの途中くらいで前説の持ち時間がなくなったので,ネタを終わらせて舞台から降りた。お客さんも温まったし自分たちの中では満足して帰ると,新喜劇の作家さんがえらい剣幕でボクたちのほうへ来てこういった。
「お前ら,前説知らんのか?何一つ説明もしないで,自分の与えられている役割を理解してたか?」
正直,前説は盛り上げ役だから,自分の中では罪の意識はなかった。そこに作家さんは続けていった。
「今からお前らのやったことの結果をみておけ」
半信半疑のまま新喜劇をみることになった。幕が開いて主役が登場,客席はただざわざわしているだけ,次々と演者さんが登場するがまばらな拍手がちらほらあるだけ,やりにくそうな演者の人たち,たかが拍手の説明をしなかったことがこれほどまでに影響するか?というくらいつらい舞台になっていた。
そして最後に作家さんから一言。
「こういうことや,覚えとき,ま,うちはもう二度と君たちに頼むことはないけど」
ほんとうにこれを機に前説がなくなった。
山里亮太 (2006). 天才になりたい 朝日新聞社 pp.137-138
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