過去に優れた業績があったからといって,現在の研究が優れていると判断されるようなことがあってはいけない。過去の業績はアイデアの実質的な妥当性とは全く無関係なのだから。名声をもとに科学界のヒエラルヒーがつくられるようなことがあってもいけない。
科学界のエートスのすばらしさは,実力主義への断固としたこだわりにある。マートンが科学的規範について書いた著名な論文にはこうある。「ある主張が科学のリストに載るか否かは,その主張をしている人の個人的,社会的属性に影響されない。彼の人種,国籍,宗教,社会経済階級,個人的資質は無関係である」。
科学の世界では,主張している人が誰であるかに関係なく,ほかのどんな理論よりもデータをうまく説明できるというアイデアに内在する価値ゆえに業績として認められる。
これは幻想にすぎないかもしれないが,とても大切な幻想だ。
ジェームズ・スロウィッキー 小高尚子(訳) (2006). 「みんなの意見」は案外正しい 角川書店 p.189.
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