ずっと昔から哲学者たちは,強欲が悪習である理由の一つとして,それが自己破壊的だという点に気がついていた。つまり,富をせっかちに求めすぎると,人は長期的にはかえって貧しくなってしまう。高等動物すべてにおいて,この報酬の重みづけ機構が基本的に同じなら——こう思うからこそ,たとえばラットでドラッグ中毒の試験をしたりするわけだが——定量的な実験では明らかにこの自己破壊的な現象が見られる。たとえば,ハトは近い将来の手軽な少量のエサよりも,遠い将来の大量のエサを選ぶ。でもその近い将来の少量のエサがいますぐ目の前にある場合には,そちらを選んでしまう。そして目先の少量のエサという選択肢をもたらす色つきボタンの他に,それを将来的に無効にするような別の色つきボタンを用意しておくと,ハトの一部は実際にそちらのボタンをつつくことで,自分にとって不利だが魅力的な選択肢を避ける——つまりハトですら,目先の小さな報酬に流されがちなのはよくないと認識しているわけだ。
ジョージ・エインズリー 山形浩生(訳) (2006). 誘惑される意志:人はなぜ自滅的行動をするのか NHK出版株式会社 pp.49-50
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