市場の境界はあいまいで客観的な方法では決められないとわかると,経済学は物理や化学のような科学ではなくて政治的営為であることに気づかざるをえない。自由市場主義の経済学者たちは,市場の正しい境界は科学的に決定できると人々に信じさせたいのだろうが,それは間違っている。研究対象の境界を科学的に決定することができないなら,その学問は科学ではない。
となると,新たな規制に反対するのは「ある人々からどれほど不当だと思われようと,現状を変えるべきではない」と言うのと同じことになる。そして,既存の規制を廃止すべきだと主張するのは「市場の範囲を拡大すべきだ」と言うのと同じことであり,それはとりもなおさず「金のある者にその領域でより大きな力を与えるべきだ」と言うのと同じことになる。市場というのは「金こそ力」の世界なのだから。
ハジュン・チャン 田村源二(訳) (2010). 世界経済を破綻させる23の嘘 徳間書店 pp.30-31
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