しかし,発展途上国の出身者や,そこでしばらく暮らしたことがある者なら,そうした国々には起業家があふれてかえっていることを知っている。貧しい国々の通りでは,考えうるあらゆるものを売る老若男女がいる。むろん子供の売り子もいる。彼らはわたしたちが買えると思ったことがないものまで売っている。たとえば貧しい国の多くで売られているもののなかには,アメリカ大使館でのビザ申請の行列の順番(売り手はプロの並び屋),路上駐車の見張り(車を破損されないように),特定の街角での屋台設置権(売り手はたぶん腐敗した地元警察のボス),物乞いをする場所(売り手は地元の暴力団)なんてものまである。こうしたものはみな,人間の創意工夫,起業家精神が産み出した産物だ。
これとは対照的に,富める国に住む人々の大半は,そもそも起業家になれるような状況にない。大半の者が会社員で,なかには数万人の従業員を雇っている者も,きわめて特殊な専門的職業についている者もいる。自分で事業を立ち上げて「ボスになる」ことを夢見たり,その夢を軽く口にしたりする者もいないわけではないが,それを実行に移す者はほとんどいない。難しいし,リスクをともなうからだ。したがって,富裕国のほとんどの人は,自分のではなく他人の起業家精神による創意工夫の上に乗っかって仕事をしているにすぎない。
ハジュン・チャン 田村源二(訳) (2010). 世界経済を破綻させる23の嘘 徳間書店 pp.215-216
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