ならば,信念全般はどうなのか?科学,宗教,超自然現象のいずれにも信念が関与している。科学者,聖職者,霊媒がそれぞれに信念を抱いているなら,正しいのは誰か?彼らが扱うのは揃って観測不可能なものであるのだが,足掛かりにする証拠の出所はそれぞれに異なっている。科学には科学的な実験手法と観察手法がある。超自然現象の根拠となるのは個人の体験と直感だ。宗教の基盤には文化,信仰告白(訳注:神に対する自分の信仰を公に宣言すること),そして個人的な体験がある。完璧な説明ではないが,三者の大きな相違をある程度把握できているはずだ。科学と宗教と超自然現象は普通,別物として扱われているが,この3つがひとつの同じ心の中でいかにして共存しているか,時には重複することもあるかという点を考える必要がある。私は,超自然現象を信じている信心深い科学者たちを知っている。彼らのことを考えると,信念を表す3つの円が重なったベン図(訳注:イギリスの数学者ジョン・ベンが考案した,全体集合を四角形で表し,その中に部分集合を円で示した図)が思い浮かぶ。自分はどれかひとつの円にきっちり収まっていると信じて疑わない人もいるが,たいていは3つの円すべてにまたがっている。信念体系として見ると,科学,宗教,超自然現象は柵できちんと仕切られているわけではなく,境界が不鮮明に融合しているため,必要とあれば,異なる信念体系から気に入ったところだけつまみ食いできるのだ。近年生じてきた信仰を巡る縄張り争いや緊張関係を理解しようとするなら,この点をしっかり認識しておくことが大切である。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.92-93
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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