ダーウィン説とはどういうものか,考えてみよう。まず,世界は常に変化しているということを受け入れねばならない。地球上の生物は生き延びるために,その世界の変化に適応する必要がある。適応が起こるのは,生物の各世代が前の世代から少しばかりランダムに変異した遺伝子構造を受け継ぎ,この変異が個体間のわずかな差を生むからである。つまり,繁殖競争が行われている環境の圧力にうまく対処できる能力を備えた個体とそうでない個体が出てくるわけだ。自然選択が起こるのは,選ばれた個体のほうが生き延びて,子孫に有利な遺伝子を伝えられる可能性が高いためである。時が,——それも,長い長い時が流れるうちに,自然の手によるこの段階的な選択プロセスが積み重なって,大きな変化や多様性へとつながる。
かいつまんで言えば,これがダーウィンの進化論だ。この星の多様性について実に多くのことを説明する,単純かつ的確で説得力のある理論である。しかし,リチャード・ドーキンス自身が嘆いたように,人間の脳はどうも進化を誤解するように設計されているらしい。彼の言うとおりだろう。進化はいまいましいほど直感に反しているのだ。たとえば,生物の多様性にはいつでも簡単にパターンを見いだすことができる。ところが,私たちに動物を集団として捉えさせるそのプロセスが,集団であるはずの動物たちをそれぞれ別個の生き物とみなせと命じるのだ。人間の寿命は比較的短く,膨大な時の流れは体験できないため,進化が進む様子を観察することはできない。しかも,素人の身では,生物が変化してきた過程を見て取れる歴史的記録をひもとく贅沢など許されない。科学者ではない私たちが頼れるのは,生き物に関する直感だけだ。それなのに,進化はその直感に逆らっている。人間のように複雑なものから細菌などの単純なものに至るまで,生きとし生けるものすべてが原点を同じくしていることなど,どうしてあり得る?設計者なしで,どうして複雑な設計が生まれよう?進化は何とも理解しがたいプロセスだと思えるのは,ほかでもない,進化が心の設計図に合致しないからである。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.108-109
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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