最新の研究の成果に煽られて,欧米では多くの親たちが我が子を,無限の思考能力と学習能力を備えたミニ天才とみなすようになった。今では,子どもに人生の最高のスタートを切らせてやりたいという親心につけ込んだ,幼児学習・教育の一大産業が花開いている。この親たちが考えている“人生の最高のスタート”とは,実は,我が子が隣の子どもより賢いと確かめることなのである。彼らが「ベイビー・アインシュタイン」や「ベイビー・バッハ」,「ベイビー・ダ・ヴィンチ」,「ベイビー・ヴァン・ゴッホ」,「ベイビー・ニュートン」,「ベイビー・シェイクスピア」といった商品を鵜の目鷹の目で探しているのを見るにつけ,親の期待が少々,非現実的なところまで高まっているように思えてならない。ちなみに,2007年に実施された幼児向けビデオとDVDに関する研究では言語発達障害との関連が報告されて,「ベイビー・アインシュタイン」の著作権を所有しているウォルト・ディズニー・カンパニーを激昂させた。
子どもの将来の所得能力を向上させる商品を売りつけたい者にとっては,親はいいカモだ。脳の視覚野を刺激しようと,ベビー・ベッドの上に吊るす白黒のモービル(不要)を買い,多感覚入力によって眼と手の協調性を高めるために,中に鈴が入った口に入れても安全なおもちゃを買い(不要),集中力がアップするというモーツァルトの曲のカセットを買い(作り話),赤ちゃんに読み方を教えるフラッシュ・カードを買い(あり得ない),情報に飢えた赤ちゃんの脳を満足させるために,赤ちゃんが何時間もぶっ通しで眼を丸くして眺めるというDVDを買う(不要)。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.135-136
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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