古代ギリシャの哲学者のように,子どもたちもまた,生き物は自らを独自の生き物ならしめる特別な何かを内に宿していると推測している。生き物とは何かを定義する本質が存在し,物に生命を与える生気エネルギーが存在し,すべてが力によって結ばれていると思っている。それぞれに異なってはいるが相関しているこれらの考え方を,哲学では“本質主義”,“生気論”,そして,“ホーリズム(全体論)”と呼ぶ。ひとつひとつの考え方に絞ってみれば,いずれも私たちが科学によって生物について知り得ているところに極めて近い。どれでもよいから現代生物学の教科書をめくってみれば,こうした信念が実際,科学的に妥当なものだと分かる。たとえば,DNAはアイデンティティと独自性を生み出す生物学的メカニズムであるが,これは本質主義の核心にほかならない。あらゆる生細胞内ではグレブス回路(訳注:クエン酸回路のこと)と呼ばれる化学反応が起きていて,これがかなりの量のエネルギーを算出する。これこそ,細胞の生命を維持する重要な生命力である。[ホーリズム,すなわち]共生の理論は,生物系の相互関連性に関する研究である。生物系のつながりについては,進化論,共生生物学,さらに新しいところでは,ジェームズ・ラヴロックの生態学“ガイア”理論が取り上げている。人は——ついでに言うなら微生物も——皆,独りでは生きられない,すべてを複合系の不可欠な要素として理解しなければならない,という理論である。たいていの人はこうしたさまざまな発見や理論を知らずにいるが,DNAやクレブス回路,共生が科学の主流となるはるか以前から,人間はそれらの存在をいつの間にか直感によって,本質主義,生気論,ホーリズムとして受け止めていたのだ。しかし,そうした直感的な推論が,スーパーセンスの根幹にもなる。なぜなら,私たちは,科学的に証明されていることを超越した,本質的で,生命にかかわる,相互につながりを持った属性が世界で作用していると推測するからである。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.216-217
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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