世間一般の平均的な人は,哲学や遺伝学の講座とは無縁だが,それでも,種間交雑が行われるようになるかもしれないと聞けば愕然とする。これは本質主義のためである。本質主義こそ,私たちが生物界を多様な集団に分類するうえで基盤としている考え方であるからだ。私たちは,同じカテゴリーに属するものは,その集団への帰属を定義する目に見えない属性を共有していると,直感的に考える。たとえば,犬はすべて,犬をイヌ科の動物ならしめる“犬らしさ”という本質を備えているし,猫は皆,犬とは異なる,猫をネコの仲間の一員とならしめる“ネコらしさ”という本質を有していると思っている。魚の遺伝子をマウスやジャガイモに組み込んだ科学者の話を耳にすると,眉をひそめる。とにかく,まっとうなこととは思えない。自然ではないからだ。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.231
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
PR