動物が探索状態になるのを好むことは,自己刺激の研究からわかっている。研究では,動物に電極の調節をさせて,自分で電極のスイッチを入れたり切ったりできるようにする。電極を好奇心/関心/期待システムに埋め込むと,動物はスイッチを入れて,狂ったように走りまわったり,においをかいだりして,すっかり疲れはてるまでやめようとしない。
こういった実験については大学で本を読んでいる人も多いので,研究の解釈がこの数年でがらりと変わっていることを指摘しておきたい。昔は,この回路は脳の「快楽中枢」と考えられていた。「報酬中枢」と呼ばれることもあった。探索回路にかかわる主要な神経伝達物質はドーパミンであるため,ドーパミンは「快楽」物質と考えられていた。私も大学でそう教わった。こういった実験について学んだときには,ESBで観察された動物はいつまでも続くオルガスムのようなものを経験しているにちがいないと考えた。
快楽中枢は,ドーパミンが多数の薬物依存症にかかわっていることとも一致した。コカイン,ニコチンなどの刺激物はどれも脳内のドーパミン値を上昇させる。薬物を使うと気分がよくなるので人間は薬物依存におちいり,したがってドーパミンは脳内の快楽物質にちがいないと考えられた。
ところが,現在では,まったくちがう考え方がなされている。コカインのような薬物が快感を与えるのは快楽中枢ではなく,脳内の探索システムを激しく刺激するからだという説で,その証拠は山ほどある。自己刺激をしているラットが刺激していたのは,好奇心/関心/期待回路だった。それが快く感じられるのだ。なにかに興奮して,起こっていることに大きな関心を抱き—「ハイになる」とよくいわれていた状態になる。
テンプル・グランディン&キャサリン・ジョンソン 大橋晴夫(訳) (2006). 動物感覚 アニマル・マインドを読み解く 日本放送出版協会 pp.130-131.
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