誰かがあの世から見ていると思うだけで,正しい行いをしようとする気になることもある。こんな例がある。コンピュータを使った試験を受けていた学生たちは,その気になればカンニングできることに気付いた。コンピュータが“誤って”時々正解を表示するのだ。実は,学生たちが表示される正解をうまいこと利用するか,それとも正直に試験を受けるか,無性に確かめたくなった実験者たちが,そうなるようにわざとプログラムしておいたのである。一部の学生たちに暗示を与えるため,アシスタントが何気なく,この試験場には以前ここで死んだ学生が取り憑いているそうだという話をした。結果,幽霊話を聞かされた学生のほうがカンニングは少なかった。私たちの罪悪感が正直さのお目付役になっていることに,まず間違いはない。罪の意識の一部は,ルールを破ったことがばれたら社会から非難されることになると信じる気持ちから生まれる。死んだ学生が試験場に取り憑いているかもしれないと信じた学生たちは,幽霊相手だろうとばれるのが怖くてカンニングを手控えたのだ。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.342-343
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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