カール・セーガンは,宇宙人に誘拐されたと主張する人々に対する当意即妙の返答において,ゴールドバッハの予想を皮肉たっぷりに使っている。
私はときどき,地球外生命体と「コンタクト」したという人からの手紙を受け取る。彼らは私に「地球外生命体になにか質問するよう」求めてくる。そこで私は何年もかけて,ちょっとした質問のリストを準備できるようになった。思い出してほしいのだが,地球外生命体は文明がえらく進んでいるのだ。だから私は「フェルマーの最終定理の簡潔な証明を見せてくださいませんか」といった質問をする。あるいは,ゴールドバッハの予想だったりすることもあるが……私は答えをもらったためしがない。一方で,もし「正しいおこないをしなければいけないのでしょうか」といった質問をすれば,ほとんどいつも答えが返ってきた。漠然とした事柄,とくに月並みな道徳的判断がかかわるような問いに対しては,こうした宇宙人は極端なほど嬉々として反応してくる。しかし特殊な,彼らがほとんどの人類が知っている以上の何かを本当に知っているかどうか確かめるチャンスのあるような事柄については,沈黙しか返ってこないのである。
リチャード・ドーキンス 垂水雄二(訳) (2009). 進化の存在証明 早川書房 pp.59-60
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