私たちは,犯罪が起こったあとで現場にやってくる探偵(あるいは刑事)のようなものである。殺人犯の行為は,過去の彼方に消えてしまっている。探偵は,実際の犯行を自分の目で目撃できる望みはないのだ。いずれにせよ,ゴリラの着ぐるみ実験その他の実験は,自分の目を疑うことを教えてくれている。探偵が実際に手にしているのは,残された痕跡であり,そこには自分の目などより信じられるものがどっさりある。すなわち,足跡,指紋(そして現在ではDNAフィンガープリントも),血痕,手紙,日記などだ。世界が現在の状態に至るためには,あれが起きてああなったという歴史ではなく,これが起きてこうなったという歴史でなければならないというのが,世界の在り方なのである。
リチャード・ドーキンス 垂水雄二(訳) (2009). 進化の存在証明 早川書房 pp.65
(引用者注:ゴリラの着ぐるみ実験とは,ダニエル・J・シモンズらによるバスケットボールのパスの間にゴリラが登場する実験のことである selective attention test→ http://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo)
PR