「魚類」の陸上への進出というとき,この「魚類」が「爬虫類」と同じように,自然分類群を構成するものではないことを忘れてはならない。魚類は排除によって定義される。つまり魚類とは陸上に移動したものを除いたうべての脊椎動物のことなのである。脊椎動物の初期の進化はすべて水中で起こったため,現在も生き残っている脊椎動物の系統樹の枝の大部分がいまだに水中にいるのは驚くにあたらない。そこで私たちは,他の「魚」とごく遠い類縁関係しかないものでも,それを「魚」と呼んでいる。マスやマグロはサメよりも人間に近い親戚なのだが,どちらも「魚」と呼ばれている。また,肺魚とシーラカンスはマスやマグロ(そしてもちろんサメ)よりも人間に類縁が近いのだが,これもまた「魚」と呼ばれている。サメでさえも,ヤツメウナギやヌタウナギ[メクラウナギ](かつて繁栄した多様な分化をとげていた無顎類のなかで唯一生き残っている現生種たち)よりは人類に近い親戚なのだが,これらもまた,すべて魚と呼ばれている。祖先が一度もあえて陸上を目指したことのない脊椎動物はすべて,「魚」のような姿をし,魚のようにして泳ぐ(魚が背骨を左右に振って泳ぐのに対し,イルカ類は,背骨を上下に曲げることによって泳ぐ点で異なる)。そして,どれもみな魚のような味がするのではないかと,私は思っている。
リチャード・ドーキンス 垂水雄二(訳) (2009). 進化の存在証明 早川書房 pp.251-252
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