さらに話を進める前に,用語法のうんざりするような問題点と,「英国と米国は共通の言語によって分割されている2つの国だ」というジョージ・バーナード・ショウの考察が遺憾ながら正当であることについて,触れずにすますことはできない。英語ではタートル(turtle)は海で生活するもの,トータス(tortoise)は陸上で生活するもの,テラピン(terrapin)は淡水または汽水域で生活するものを言う。米国では,陸上にすんでいようが,水中にすんでいようが,これらの動物はすべて「タートル」である。「陸ガメ(land turtle)」という言い方は,私には奇妙に聞こえるが,アメリカ人にとってはそうではない。彼らにとってトータスは,タートルのうちで陸にすむ下位グループなのである。一部のアメリカ人は,「トータス」を厳密な分類学的な意味でもリクガメ科(Tetudinidae)に対して用いる。リクガメ科は現生の陸ガメ類を指す学名である。英国では,リクガメ科のメンバーであるかないか(あとで見るように,陸上で生活するがリクガメ科のメンバーでない化石「トータス」が存在する)にかかわらず,あらゆる陸生のカメ類(chelonian)をトータスと呼ぶ傾向がある。
リチャード・ドーキンス 垂水雄二(訳) (2009). 進化の存在証明 早川書房 pp.267
PR