2010年4月,狂犬病の予防注射の会場で,イヌが咬み殺されるという事件がおきました。被害にあったのは,2歳の雄のヨークシャー・テリアで,愛知県内で行われた予防注射の際,後ろに並んでいた雑種の中型犬に,頚に咬みつかれたままふりまわされたあげく死んでしまったというものです。その雑種犬は,ヨークシャー・テリアの5倍もの体重があったといいます。
ヨークシャー・テリアの飼い主は,「市側には,イヌが興奮して暴れないよう飼い主に適切な指示を与えたり誘導したりする義務があった」と主張し,市と咬み殺した中型犬の飼い主を相手取り,約140万円の損害賠償を求める訴訟をおこしました。訴えられた市側は「イヌどうしが接触しないようにするのは飼い主の義務」と反論し,中型犬の飼い主は,「相手のイヌが近づいてきたのが原因だ」と言って,請求棄却を求めたということです。
三者三様,あまりにもレベルが低いと言わざるを得ません。愛するイヌを亡くした飼い主のつらい気持ちはわかります。しかし問題は,中型犬が社会化されていなかったことであり,市の職員の誘導ミスなどではありません。また,市側が求めるべきは,「イヌどうしが接触しないように」ではなく,「接触しても平気でいられるように社会化しておくように」です。さらに,咬んだイヌの飼い主が,「おまえのイヌが近づいたからわるい」と言っているのは,もってのほかです。それにしても,狂犬病の予防注射の会場でイヌが咬み殺されるというのは,前代未聞の事件です。
堀 明 (2011). 犬は「しつけ」でバカになる:動物行動学・認知科学から考える 光文社 pp.25-27
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