このように,理系の人の多くは,単に「ものを覚える」という勉強が面倒だと感じているだけだろう。だから,文系の学科を「不得意」とは自覚せず,「やる気になれば,いつでもできるもの」と考えているのである。
したがって,文系の人が「理系の人間は変わっている」と思っているほど,理系の人は「文系の人は変わっている」とは考えない。文系と理系を意識するのも,文系の人のほうが多いはずだ。
その証拠に,理系の中にしばらくいると,ここでもまた,理数科目の不得意を感じる場面があって,「自分は文系なのかな」と意識する人が現れてくる。僕の観測では,たとえば工学部の学生の半分以上が,これを感じることがあるみたいだ。高校生までは数学や物理ができたから,なんとなく理系の学科へ進んだけれど,もしかして自分は不向きなのでは,と将来に不安を抱き,相談に来る学生がとても多い。
ちょっとわからなくなると,「自分は向かない」と処理してしまう。これは,諦めが良いというのか,あっさりしているというのか,どうも日本人の傾向なのかな,と思えてしまう。
森 博嗣 (2011). 科学的とはどういう意味か 幻冬舎 pp.31-32
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