TVの報道番組に専門家(たとえば科学者)が呼ばれて,司会者が質問をすることがある。「先生,これはどういうことなのでしょうか?」と解説を求めるのだが,それに対して専門家が丁寧に答えても,司会者はまったく内容を聞いていない。話がまだ途中なのに次の質問をしたり,今説明があったばかりのことをまた尋ねたり,という場面があまりにも多い。
そして,最後には,こんなふうにきくのだ。「先生は,この事態についてどう思われますか?」と。いくら専門家であっても,その人がどう思っているのか,ということは聞いてもしかたがない。専門的な見地からデータを示し,それを評価しつつ説明することが専門家の価値である。その専門家が「残念です」とか「少し光が見えてきました」と個人的感想を述べても,そんなものに意味はない。しかし結局は,この最後の「感想」だけを受け取る人が大多数だし,番組もその言葉を欲しがっているのである。
森 博嗣 (2011). 科学的とはどういう意味か 幻冬舎 pp.58
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