「スコットランドの羊」という有名なジョークがある。沢山の本で紹介されているし,ネットでもさまざまなバージョンを読むことができ,登場人物もそれぞれに違っている。どれがオリジナルなのかはわからないが,だいたいこんな感じである。
天文学者と物理学者と数学者の3人が,スコットランドで鉄道に乗っていた。すると,窓から草原にいる1匹の黒い羊が見えた。
天文学者がこう呟く。「スコットランドの羊は黒いのか」
それを聞いて,物理学者が言った。「スコットランドには,少なくとも1匹の黒い羊がいる」
すると,数学者がこう言った。「スコットランドには,少なくとも1匹の羊がいて,その羊の少なくとも片面は黒い」
僕なら,ここに,子供を1人登場させ,最後にこう言わせたいところだ。
子供「あれは本当に羊なの?」
このように,人間は大人になると(たとえ,科学者であっても),自分が観察したものから,ついつい「勝手に」決めつけようとする。数々の疑問をスキップして,結論へジャンプしてしまうのだ。経験を積み重ねるほど,むしろこのジャンプは頻繁になるし,また距離も遠くなるようだ。たいていの場合は,その着地点は正解であり,結果的にジャンプによって正解にいち早く到達できる。正解を早く見出すことが,社会で生きて行くうえでは重要視されるので,自然にみんながジャンプするようになるのだ。
森 博嗣 (2011). 科学的とはどういう意味か 幻冬舎 pp.114-116
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